お知らせ

ソマリア事務所國井医師よりの報告

2011年8月25日

(C)UNICEF_Somalia2011Kunii

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7月中旬、国連が「飢餓状態」を宣言したソマリアで支援活動を続けているユニセフ・ソマリア事務所の國井修医師からの報告です。國井医師は、今年の東日本大震災後から宮城県において支援活動の先頭に立って活動しました。2ヶ月の支援活動の後、ソマリア事務所に戻り活動中です。

1985年、私がまだ大学生時代に訪れたソマリアの首都モガディシュは、真っ白な建物が海の青さに映える長閑で静かな街。海沿いのイタリアンレストランでは潮風を浴びながら食事を楽しみ、夜中に独りで歩いてもさほど危険を感じませんでした。
それが1993年、長引く内戦を終結するため、アメリカ軍を中心とする多国籍軍が介入した3ヵ月後にモガディシュ入りした時には、内戦によってほとんどの建物が機関銃・迫撃砲などによって全壊または蜂の巣状態。いつもどこかで銃声や爆音が聞こえ、外をまともに歩ける状況ではありませんでした。
今回18年ぶりに訪れたモガディシュはやや落ち着きを取り戻した感はありますが、内戦ですさんだ街並みはそのままで、多くの避難民で溢れていました。この避難民は干ばつのため農作物は育たず、家畜も死んでしまい、自ら食べるものもなくなって飢え死にする寸前で援助を求めてモガディシュにやってきた人たちが多くいます。子どもたちの多くが栄養不良で、髪が黄色く変色し、皮膚は浮腫で腫れたり、腹水が溜まってお腹がふくれたりしています。体を洗うきれいな水もないため、皮膚病になって汚くただれていたり、目が感染症や炎症で赤く目やにが溜まって、そこに蝿がたくさんたかったりしています。

特に最近では、下痢症、特にコレラと思われる急性下痢症が流行してきました。モガディシュにある最大規模のバナディール病院で調べたところ、ここ4ヵ月で下痢症患者は2倍に膨れ上がり、その6割近くが5歳未満の子ども。便検査をしたところ、その6割がコレラでした。コレラは適切な対策を講じないと広範囲に、多くの人々を感染させ、また死に至らしめる恐ろしい感染症です。
バナディール病院は18年前に訪れた時も多くの患者さんでごった返す野戦病院でしたが、今回もその様相は変わりませんでした。窓ガラスは割れ、資機材が略奪され、病棟の廊下にも所狭しとベッドが並んでいましたが、そのベッドも足りずに何も敷かずに床に寝かされている患者さんもいました。

急性下痢症、特にコレラは水のような下痢が止まらず、体の中の水分・電解質が失われて脱水状態になってしまう病気です。放置しておくと死亡率が50%以上にもなりますが、きちんと治療すれば死亡率は1%以内に抑えられます。ソマリアでは平常時でもまともに安全な水が飲めるのは国民の3割に満たず、それも何時間も歩いて水を汲みにいかなくてはならない場所もあります。衛生状態は悪く、コレラ以外にも様々な感染症にかかりやすい環境にあります。そのため、子どもの死亡率は世界でもいつも最悪レベルにあります。中でも、主要死亡原因となるのが下痢症です。

今回の干ばつ・飢餓でなぜ下痢症が流行してきたのでしょうか。
一つはもちろん、水と衛生。コレラはソマリア国内、特にモガディシュには常在している菌ですので、その病原菌を含む水を飲み、病原菌のついた食物などを口にすることで伝播していきます。

二つ目は栄養不良。栄養状態が悪いと免疫抵抗力が弱くなり、感染症にかかりやすく、また死亡しやすくなります。重度の栄養不良の子どもは、下痢症による死亡率が栄養状態が良好な子どもに比べて10倍以上も高いことがわかっています。

三つ目は人々の移動と集中。干ばつで田舎から街中に援助を求めてやってきた人々は、街中のコレラなどの病原菌に対する免疫力がない可能性があります。また、不衛生な避難民キャンプに多くの人が集中するため、病原菌も伝播しやすい環境にあります。

四つ目は粉ミルク。干ばつ・飢餓と聞いて、栄養が足りないのだから子どもに粉ミルクを送ろうとする援助団体・企業・国があります。ところが、緊急時に粉ミルクを6ヵ月未満の赤ちゃんに与えることで、かえって死亡率を上げてしまうことが最近の研究でわかっています。その理由は、緊急時には安全な水が入手しにくいこと、水や哺乳瓶などを煮沸する燃料が入手しにくいこと、ミルクが残ってそれを常温で数時間放置すると病原菌が繁殖してしまうこと、粉ミルクには母乳に含まれるような感染症を予防する免疫成分などが含まれないこと、などが考えられます。良かれと思って支援した粉ミルクが現地の子どもの死亡を増長してしまうとは皮肉なことです。

では、このような下痢症の流行に対してどのような対策を行えばよいのでしょうか。まずは、現在の下痢症患者がどこでどのように増えているのか、それがどんな年齢層で、どれほどの重症度で、死亡率がどのくらいで、どんな病原菌で起こっているのか、そのような情報をしっかり把握することが重要です。コレラなど下痢症流行の原因となっている水源があればその元をたたなければだめですし、他にも大きな原因があるかもしれませんので、それを同定して対策を講じることが重要です。
次に、それらの情報、また過去の情報などを基にどの程度の患者が発生するかを推測して、その患者数に必要な医薬品、特に点滴、抗生物質、ORS(経口補水塩)などを調達し、どこの倉庫にどれだけ貯蓄しておくかなどを決めます。ユニセフは飢饉の前から、このような医薬品のほとんどを海外から調達し、国内の必要な病院・診療所などに供給してきましたので、今回も下痢症対策に必要な物資のほとんどの調達・支援を期待されています。

ここで問題なのは、治安の悪化によって、ソマリア国内で簡単に輸送・備蓄できないことです。今回は一人でも多くの子どもを救うために、大量の物資を迅速に必要な場所に送らなければなりません。たとえばこれまで20機以上の飛行機をチャーターして輸送に努めてきました。子どもを救う親の気持ちはどこでも変わりませんので、武装勢力とも根気よく交渉し、地域や宗教のリーダや市民団体などの協力を得ながら、必要な現場に送り届けています。

物資を送り届けた後の問題は、現地の医療従事者が適切にそれらを使えるかどうかです。中にはソマリア人医師も残っていますが、多くの優秀な人材、専門家は難民となって海外に出てしまいました。単なる下痢症だけでなく、栄養不良、麻疹、破傷風など様々な状態・病気が混在しています。病院や地域でできるだけ多くの子どもを救えるように、医療従事者、そして地域保健ワーカーなどの能力開発も必要です。今、緊急時には、簡易なガイドラインとトレーニングで一時を凌ぎ、少し余裕が出てからきちんとしたトレーニングをするのが効率的です。
いずれにせよ、感染症は待ってはくれず、次から次へと弱者を襲います。流行がソマリア全土に拡大しないよう、今、総力をあげて戦っています。

・・・・ 2011年8月18日 日本ユニセフ協会HPより